らーめん久月の味噌ラーメン

20220604


どんな人にも「もう今は食べることのできない、記憶だけに残っている味」というものがある。僕にとって、らーめん久月の味噌ラーメンはそのうちの一つだ。
らーめん久月は、清水駅から少し歩いた住宅街の一角にあった。5台分ほどの駐車場があり、高校生の頃までは母親の運転する車で家族でラーメンをよく食べに来ていた。
お店は混雑することはなかったけど、僕らが入店してから退店するまでの間に必ず別のお客さんが入店してくる、という繁盛加減だった。
店主は小柄な手塚治虫という風貌で丸眼鏡と大きめの鼻が特徴的だった。奥さんもいらっしゃってお店の切り盛りをされていたが、今も覚えているのは主人の顔だけだ。
メニューは一般的な町中華という感じだったが、注文したのはいつも味噌ラーメンだった(たしか1回だけ別のものを注文したのだが、食べ終わって「やっぱり味噌ラーメンを頼んでおけばよかった」と思ったことしか覚えていない)。それくらい味噌ラーメンはおいしかった。注文して、カウンターの近くに置かれている少年ジャンプをしばらく読んでいると、味噌ラーメンは運ばれてくる。
味噌ラーメンには葱ともやしが盛られ、その上にコーンがたっぷりと乗っている。脇にはゆで卵が2つに切られて浮かんでいる。スープには胡麻が浮いていて不思議と食欲がそそられる。麺が食べたくて割りばしをスープに差し込んでひっくり返すと太麺が現れるので、つまんですする。濃い味噌のスープと、麺の組み合わせがとにかくおいしかった。
鼻汗をかきながらひたすらにラーメンを食べ、野菜を食べ、スープをすする。食べている間、いつも幸せであった。
あの味のことをたまに思い出す。また食べたくなる。でももう食べることはできないのだ。でも、記憶に焼きつくまで、何度もあのラーメンを食べられたことは本当に幸せだったのだと思う。
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